会話を通して本と人を繋ぐ髙橋優香さんの新しいページ

会話を通して本と人を繋ぐ
髙橋優香さんの新しいページ

靴下の脱ぎ履きという行為はときに人を活動へと導き、安息へと誘うもの。その存在を日常生活のスイッチに見立て、クリエイターのオンやオフを通してその創造性を紐解く。2023 年11月、代々木八幡に書店をオープンさせた髙橋優香さんは、古書が持つ価値を見出し、対面でじっくりと文化をつなぐ。フラットで心地よい空間は生活の哲学へと繋がっていく。

代々木八幡のほど近く、ガレージのような半地下に書店Hi Bridge Booksはある。店主の髙橋さんが、神保町でひときわ存在感を放つ小宮山書店の小宮山氏にNYで出会ったのは、いまから8年前のことだ。服飾専門学校を卒業後、スポーツメーカーでパタンナーとして勤務し上京。BEDWIN&THE HEART BREAKERSで5年勤務した後に単身渡米してから2ヶ月のことだった。海外に身を置くと母国が全く違って見えてくるものだと多く言われるように、当時の髙橋さんの目に改めて新鮮に映り始めた日本という国の魅力、そして時代を超えて視覚的に追体験できる記録媒体の表現力にぐんぐんと引きずり込まれていった。

「それまで写真に対してそこまで意識はしていなかったんですが、小宮山書店が持つアーカイブを見たときに、作家たちは自分の感情や考えを、写真を使って形にしていることを知ったんですよね。時代背景も何もかも違った写真を通して、受け手はいろんなことを見たり感じることができる。言葉がない中でこんなに人の心を動かせる媒体があるんだ、って素直に思ったんです」。

世界の名高いブックフェア “パリ・フォト”やオフプリント・ロンドン”に出入りし、NYの古着店フロントジェネラルストアでポップアップを行うなど、アメリカで2年間活動。帰国後の5年間は気鋭のセレクトショップGR8でKOMIYAMA YUKA BOOKSとしてショップインショップを構えた。ストリートアートやアート・デザインブックのキューレーションを行ううちに、ハイ・ストリートなファッションと日本のストリートアートをつなぐ次世代のプラットフォームとなり、巨匠と呼ばれるアーティストとの交流も少しずつ深めていった。彼女が数多くのアート本に向き合うきっかけとなったのは、荒木経惟の『食事』という作品だったと話す。

「奥さんが作った手料理の写真を撮っている写真集で、接写ができる巨大なカメラを食卓に置いて撮っているというものです。一般的な家庭料理なのにすごくエロエロしく生々しく見えてくる。同時に、食べることは生きることだという摂理がありのままに映し出されているんですよね。途中、奥様がガン宣告を受けられてからはカラーで写せなくなってしまって、写真が白黒に変わるんです。こういう愛情表現があるのかと、今でも見ていると泣けてくるんですよね。この頃、深瀬昌久さんの作品にも出会ったんですが、まるで呪われているかのように自身の固執した数々の作品を見ているうちにいろんな感情が湧いてくるんですが、それがすごく面白かった。写真を通して、自分が知っている物が違った見え方をすることも興味深いですが、同時に作品や作家性に向き合うことは自分自身を知るきっかけにもなりました」。

Hi Bridge Booksの開店という人生の大きな変化の渦中にある高橋さんの日常的なスイッチとは?

「(NYの写真家)ライアン・マッギンレー氏が“朝、美しいものを見て始めると、1日がすごく豊かになる”と言うようなことを言っていて、私も真似してみたんです。すると、自分のマインドもフレッシュになっていい一日が過ごせるというか、いつもと違うビジュアルが出てくるんですよね」。

何かを達成するために努力をするよりも、自然な流れに合わせて変化し続けていくタイプだという。さして強い嗜好があるわけでもないし、ジャンルを突き詰めるということもしないという。写真集やアート本、ファッション、カルチャーを主体にした店づくりにおける“髙橋スイッチ”は、ものとして面白さを極めているか、自分が見てワクワクするかどうかのみ。楽しいかどうかの純粋さは、ストリートカルチャーとの合言葉だ。

「共通してるのはDIY精神ですね。専門教育を受けていなくてもとりあえずやってみようって、洋服作ったりデザインしたり、スケートのビデオを作る。シンプルに気になることをやる、楽しいことをやるということは、生きる上ですごく大切にしています」。

大切なのは、心をオープンにして、フラットな判断力を養うようにすること。年齢や性別、国籍などのラベルで判断してしまうと、それ以上は超えられないから。その姿勢を学んだのは、写真家・荒木経惟からだ。

「荒木さんって何でも撮るんですよね。女も子供もおばさんも若者も花も、自分で活動の制限をつくらないんです。人はなんらかの形で社会と関わらないと生きていけないわけで、自分に一番適した媒体は何かと考えたときに、私にとってはそれが本なのかな、と思うんです。自分にとって一番制約がないんですよね」。

店は予約制になっていて、髙橋さんは来訪者と会話をしながら本を紹介していく。両者が本を媒介して組みかわすものは形こそ見えないが、明白で清々しくもある。

「人って自分の思っている文脈と違う角度のものが入ってくると見方が変わって、やがてそれが人生をも変えることがあるんですよね。それが本のいいところかな。私、思ってもいないところを突いた本を紹介するのが得意なんですよ」。

友人宅に遊びに来たような約10平米で、心地よく感性が刺激されながら自分の興味関心のベクトルが広がっていく。AI化が進む現代において、これほど贅沢な時間はないのではないだろうか。

「今、目の前に18万円の写真集がありますけれど、これがもし5000円で売られていたらこんなにみんなに大事にしてもらえないと思います。この価格がついているからみんなが大切にして次の時代にも渡していける。だからこそ値付けってすごく大事なんです。何がなんでも高ければいいというわけではなく、自分で本の中に価値を見つけて文化として残していく重要性は使命として感じています。資本主義的な考えではありますが、この世界のなかで文化を繋いでいくためには必要なことと思っています。だから、私は自分が全部説明できて、紹介できるものを販売できればそれでいいというか、それが大切なんです」。

日々の生活を取り巻く感情、革新、技術、変化、時間経過。作家という人間を形成する全てが込められた色濃い作品群に囲まれているせいか、身につけるものはどんどんシンプルなものに変わっているという。

「結局、いかにして気分良く生きるかが人生の目標だと思うんです。そのために人は派手な服を着たりするわけで。誰にどう見られるということよりも、自分をアゲるためにちょっと派手な靴下を履くっていう判断を大切にしたいですね」。


髙橋 優香

国内に埋もれる希少価値の高い写真集、メインストリームには沿わないカウンターカルチャーの視点で制作された書籍や雑誌、作品などを独自の感覚で取り揃えて紹介する書店Hi Bridge Books店主。

@yukaponsan Instagram
@hi_bridge_books Instagram


Photographer:Shota Kono  Instagram
Production:Little Lights  Instagram

Wearing Items

[MARCOMONDE]
mohair ribbed socks

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